省庁再編を巡る議論の観戦マニュアル
しばらくの間は「省庁再編」がバズワードになる気がします。
多くの方々が色々と意見を述べられると思います。
どういう観点でこの論戦を眺めたらいいのか、ということを少し書いてみます。
- 1. 省庁再編論は、組織の効率化だけではなく、どうしても政策が絡む
- 2. 懲罰的な意味合いのみの組織改編論は、ちょっと怖い
- 3. 役人の意見は聞くべきけど、聞く人を選んだ方が良い
- 4. 産業界の意見は、ユーザーの目線として面白い
- 5. ユーザーといえば、国民である
- 6. 中で働いているのは人間である点に注意する
1. 省庁再編論は、組織の効率化だけではなく、どうしても政策が絡む
組織の再編の話ですので、純粋な組織論の話(※)だと思われる方も多いと思いますが、どうしても「政策的なバイアスが絡んじゃう」ということです。
わかりやすい具体例を挙げてみます。
最近の報道ではあまり出ていないですし、メインテーマにはならないとは思いますが、農林水産省と経済産業省をくっつけよう、という議論が一部であります。
目的は、農林水産物の輸出額1兆円達成。これが安倍首相の首席秘書官・今井尚哉氏の肝いりでもあり、農水省解体への動きだともっぱらなのです
小泉進次郎が斬り込む「農水省と農協」解体(2016年10月13日) - エキサイトニュース(1/4)
官邸主導の安倍政権では、「誰が次官になろうとも変わらない」(同)ともいわれるが、奥原氏に限っては事情が違う。「農業が産業化し、農水省が要らなくなることが理想だ」と豪語し、省内の“守旧派”への冷徹ぶりも一貫している。
農水次官に奥原局長を抜擢、コメ政策改革の貫徹が試金石 | 週刊ダイヤモンドSCOOP | ダイヤモンド・オンライン
簡単に言えば、農業もビジネスなのでビジネスを所管する経産省と一緒にした方がより適切な施策を打てるんじゃないか、という発想ですね。
しかし一方で、農業は国の礎であって経済原理だけで議論するのは危ない、みたいな考え方を持つ人もいるわけですね。
そうすると、結局は、「農業政策をどうしたいか」という政策的なバイアスがこの組織再編の議論に滲みこんでしまうわけです。
ですので、省庁再編に関する意見を見るときは、「その人はどのような政策を理想と考えているのか」という背景事情にも目を配ると、より興味を持って議論を眺められると思います。
(※)純粋な組織論の話
ちゃんと組織論とか経営学を学ばれた方なら冒頭のここでいきなり引っかかったと思いますが笑、
例えば、チャンドラーという世界的経営学の権威は「組織は戦略に従う」と言ってまして、まず組織の目標や戦略を固めないと組織のあり方なんて決められないよな、という話です。このことからも、政策目標の議論を抜きにして省庁再編について語るのはちょっと無理があることがわかります。
ちなみに「戦略は組織に従う」と、一見真逆なことを言ってる経営学者もいましてね……、とかやるとまた長くなるので、省略。
2. 懲罰的な意味合いのみの組織改編論は、ちょっと怖い
kasumigasekipeople.hatenablog.com
kasumigasekipeople.hatenablog.com
まぁここで書いた通りなのですけども、
この記事を書いた時からさらに色々な省庁で問題が噴出してまして、
多分今後も懲罰的解体・懲罰的再編の声はたくさん上がると思います。
一つの「きっかけ」には十分なりえると思います。
ここまで不信が募ると、一度ぶっ壊してゼロからやり直すことで信頼を取り戻すというやり方にも一定の理屈が通る状況はありえるでしょう。
しかしその衝動で無理のある組織ができてしまって非効率さが生まれると、それは結局納税者に跳ね返ってしまうと思います。それに、今いる人に対しては懲罰の意味はあると思うのですが、そのうち人が入れ替わると、懲罰的意味は薄れて、組織構造だけが残っちゃいますからね……。
なので、「懲罰的再編」を唱える人の意見を聞くときは、その先にどのようなビジョンがあってそれは合理的なのかを丁寧に聞くと理解が深められると思います。
3. 役人の意見は聞くべきけど、聞く人を選んだ方が良い
やっぱり中で仕事してる人間が一番知ってますから、「役人の意見なんか聞いてるとまた骨抜きにしやがる」とか言って全無視するのは危険だと思います。
この複雑怪奇な組織を再編する上では、その中をなんとか生き延びてる人たちの話は聞いた方がいいのではないかなと。
ただ、あまり偉い人だと、再就職先の調整とかそういうこともやらないといけなくなっていて、再就職先業界をちゃんと所管し続けられるのか、とかそういう別の視点が入ってきてしまう恐れがあるので、ゼロベースで省庁再編のことを語っていただけるのかは際どい気がします。
それから、悲しい話なのですが、その所管業界が「美味しいか美味しくないか」という観点で見てしまう人がやっぱりまだいるのですね。行政指導とかに快感を感じてしまう人がいるわけです。そういえば特別指導をプレゼントとか言っていた人もいらっしゃいましたけれども。
省庁再編が、「省庁間の権力の奪い合い」みたいなヘンテコな議論に巻き込まれると、国にとっては不幸だと思います。で、その権力の奪い合いは別に官僚だけがやるわけではなくて、そこに影響力を持っている人たちもステークホルダーになりえるわけですね。
ですから、省庁再編に関する意見を聞くときには、省庁間の権力の奪い合いみたいな意図が絡んでたりしないかなーという視点を持つと、冷静に考えられると思います。
もはや、「省庁間の折衝とかがなんとなくわかってきて、おかしな部分にも気づくようになってきたけど、まだ根性はひん曲がってない」みたいな新人類に色々ヒアリングした方が、面白い意見が出てくるんじゃないかなとか思います。
私もまだそのマインドを維持できていると信じたいが……。そういうの、自分ではわからないですからね。「自分は大丈夫!」っていう思想が一番キケン。
ちなみに、再就職の話をちょっとしてしまったので、蛇足になりますけれども。
私、当然、まだまだ再就職なんていう年齢ではないのでそもそも事情を事細かに知ってるわけではないのですが、下から見ている感じとしまして、
国家公務員の再就職と言いますと、どうしてもキャリア組が高額な退職金を何回ももらう「渡り」みたいなやつばかりが取り上げられてしまいがちで、それはどうかなと私も思うのですが、再就職というのはそういうやつだけではなくて、それこそ自衛官の再就職の問題とかありますし、国家公務員って別にキャリアだけじゃないですから、本当に色々なパターンがあるので、そういった部分をどう考えていくかというのは忘れてはならない部分だと思います。
4. 産業界の意見は、ユーザーの目線として面白い
民間企業でビジネスやっている友人の中には、認可とか許可とかそういう行政行為と関係がある者もいるため、色々な話を教えてもらうのですが、
○○について認可してほしいのだけど、A省とB省との間で議論が始まって時間かかってるうちに、海外のライバル社にやられた
みたいな話を聞くことが少なくないのですね。
そういう部分が、組織構造の再編で解消されたら素晴らしいですよね。
もちろん、複数の省庁が議論を重ねることでバランスが取れた行政が実現するという側面はありますし、でかくしすぎるとそれはそれでデメリットが発生するので、一概に色々くっつけりゃいいとは言えないのですが、「行政のユーザー」の声に耳を傾けるのはいいことだと思います。
5. ユーザーといえば、国民である
言わずもがなですが、ここを読んでくださっている皆さんも、何かしらの形で行政に触れているわけです。そうすると、何か一つの手続きを行うのに、色々な役所をハシゴしないといけなくて面倒だなぁ、みたいなことがあるはずです。
そういう話を全て、親元の「中央省庁の再編」というやり方で解決するのが良いとは言えませんが、一つの気づきにはなると思うんですね。
これ系の話題でよく出てくるのは、例えば「幼保一元化」、つまり幼稚園と保育園の一元化ですね。(認定こども園とか、いろいろ頑張ってはおります)
一つの政策ごとに一つの省庁を置いたりしてるといよいよ収集つかなくなっちゃうので、何でもかんでもそのスタイルで再編していけばいいというもんでもないのですが、エンドユーザーによる「行政が使いづらいぞ」という意見は、超基本的だけど最も重要であることは間違いないですから。
まだ議論が始まったばかりで、党の方針とか官邸の意向とか、そういう話しか出てきませんが、今後、ユーザー目線の意見もいろいろ出てくると、議論に厚みが出て面白くなるんじゃないかなぁと思います。
ユーザーの意見無視して話進めちゃうとか、本末転倒だと思うんですよね。
6. 中で働いているのは人間である点に注意する
5.までで終わらせようと思ったのですが、読み返すと、「国民目線の意見が大事だ」で締めるという、なんかすげー安っぽい記事になりそうで(いや、本当に一番重要だと思うんですよ。当たり前なだけに、なんか胡散臭く聞こえるという……)、ちょっと自分でも引いたので笑、照れ隠しに蛇足を……
組織をいくらいじろうが、中で働いているのは生身の人間です。
生産ライン変えたら工場の生産性が上がりましたとか、そういう簡単な話ではないのですね。
大企業の合併とかでもよくあると思うのですが、合併してスケールメリットを目指したのに、結局、「旧○○系」と「旧△△系」の縄張り争いが発生してあまりうまくいきません、みたいなことが起こることってそんなに珍しくないと思うのですね。
だから、ヒトの動きも一緒に考えないと、引越しのコストだけかかりました、なんていうお粗末なことになりかねません。
あとは、職務に応じた適切な人材の異動という観点も大事でして、
「歳入庁」が結構話題になってますから、それを例にして考えてみます。
今は財務省の外局として存在する国税庁を、(懲罰的意味合いも込めて)財務省から切り離して社保庁と一体化する、という話だと思うのですが、
国税庁は財務省主税局への人材供給プールとしての役割も担っているのですね。
私、主税局に対して税制改正要望をしたことがあるのですが、税制の立案というのは本当に難しくて、現場での徴収経験がある人が税制立案プロセスに携わっているのは価値があることだと思います。
現場経験がない人だけで政策を作ると、現場では全くワークしない制度ができちゃう恐れがあるわけです。
なので、仮に国税庁を財務省から切り離すと判断した時に、それは一つの政策判断として十分あり得ると思うのですが、霞ヶ関全体としてどのような人の流れを作るのかというのも一緒に考えておかないといけない気がするのですね。
こういう議論って既にされているのでしょうか。あまり見ない気もするのですが。
(逆に、そこまでやらないと主税局のパワーは落とせない、という主張があるのでしょうか。どんな意見があるのかまだ把握できていません)
歳入庁が話題になりやすいので例にとってみましたが、地方部局と中央の関係というのはどこも似たようなものでして、人の流れは極めて有機的で複雑なので、
そういう観点からも、ハコだけではなくて中身のヒトの部分もうまく調整していかないと、おかしな結果が生まれるんじゃないかなという気がします。
時代の要請に合わせて組織構造を柔軟に変えていくというのは必要だと思いますので、一部の人が影でほくそ笑むようなことなく、冷静で緻密な議論が広く展開されればなぁと思います。
いつもよりふわっとした話でしたが、今日はこの辺で。
それでも結構長いか笑
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<おことわり>
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また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。
(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)
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