現役官僚おおくぼやまとの日記

※このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。

60年償還ルールを無くしてもお金は降ってこないのでお母さんの借金が増えるだけでした

2023年も宜しくお願いします。

本件を書くにあたり直近の記事を見返すと、まぁ筆不精のひどいこと。第一回、とか銘打って途絶えているもの多数。よくないですね。楽しみにしてくださっていた方はすみません。

 

ただ今回はですね、そういう積み残しは棚に上げて、書きたいテーマが出てきたのです。その名も「60年償還ルール」です。

 

ちょっと時事ネタに詳しい方は聞いたことがあるでしょうし、もちろん、聞いたことがない人も多いと思います。

 

https://www.j-cast.com/kaisha/2023/01/30455025.html?p=all
「(国債の)60年償還ルールを廃止すれば、財源になる」などの意見も出たという。

という議論があるようで、
「なんだかよくわからないが、60年償還ルールとかいう謎ルールを見直せば財源が出てくるらしい。政府が隠し持っているらしい」

というご意見をtwitterなどでもちらほら見かけるようになりました。

今回はこの件について、限られた知識でできるだけ簡単に書いてみようと思います。
厳密な議論を求めている方のご期待には沿えない内容です。

簡単に言うと、60年償還ルールとは、
今ある借金を60年かけて返すために、毎年、借金全体の1/60ずつ返すためにお金を確保しましょう、ということです。
60年償還ルールについて、詳しく知りたい方はこういう資料をご覧ください。

私の記事読んでも詳しくはなりません。 

https://www.mof.go.jp/jgbs/publication/debt_management_report/2017/saimu2017-2-3.pdf



が、償還ルールを無くしたら財源が出てくるのか、という問を本質的に考える上では、
1/60とかいう情報すらいらないので、忘れてもらって構いません。

最も重要なことは、
「一般会計(今年の予算は100兆円規模!とか言っているもの)とは別に、借金返すためのお財布(特別会計)が別にある」
「償還ルールはお財布の間でのやりくりに過ぎない」
「会計全体で見ないと意味がない」
ということです。

よくわからないですよね。
図を見ながら、順を追って考えていきましょう。
 

https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2023/seifuan2023/01.pdf

 

これが、令和5年度の予算(政府案)です。
社会保障(左の円の右側)が大きいねとか、地方交付税交付金等(国が集めて地方に配るお金。左の円の左側)も大きいねとか、
税金は収入全体の6割ぐらいなんだ(右の円)とか、色々読み取れることがあるわけですが、
今回議論されているのは、左上の債務償還費です。

 

 

こいつです。 

借金を返すためのお金(債務償還費)です。


これが邪魔なわけです。邪魔。ナニコレ。
これをやめれば他の予算に使えるんじゃない!?=財源が出てくるんじゃない!?

というのが今日の論点です。

確かに、この2つの円だけ見ているとそういう気がしてしまうんですよね。


実際には、国のお財布はこの2つの円だけではありません。

国債整理基金特別会計」という、借金を管理している特別会計があり、
そっちとあわせて考えないといけません。
特別会計の資料を一緒に載せないからこうなる。見せ方も悪い。

イメージだけ掴んでもらうために、思い切って、ものすごく簡単にしてみようと思います。

お金を稼いで(借金もして)趣味に使うお父さん(一般会計)と、
家の借金の返済を任されているお母さん(特別会計)のことを考えます。
なぜお母さんが、というジェンダーの話はここでは考えるのをやめます。逆でもいいです。

 

【お父さん】
<収入サイド>
収入      60万円
新しい借金   40万円

<支出サイド>
趣味      80万円
お母さんに渡す 20万円

お父さんから、ひたすら借金返済に奔走しているお母さんに、これを借金返済の足しにしてくれ、と20万円渡します。夫婦間でそういう取り決めになっています。

これが「償還ルール」の部分です。

【お母さん】
<収入サイド>
お父さんから     20万円
返済のための借金   180万円

<支出サイド>
借金返済       200万円
(※返済期限が来るので、ここは絶対に減らせません。)

お母さんのほうは結構悲惨でして、期限が到来する借金返済のために、金融機関をハシゴして借金をしてきています。
自転車操業ですねー。


さて、今言われている「償還ルールを無くしたら財源が出てくる」のは、
「お父さんがお母さんに渡すお金を減らす(やめる)と、もっと趣味に使えるんじゃないか」
ということですね。
実際に、やってみましょう。


【お父さん】
<収入サイド>
収入      60万円
新しい借金   40万円

<支出サイド>
趣味      100万円   
(お母さんに渡す  0円) 

【お母さん】
<収入サイド>
お父さんから      0万円 
返済のための借金   200万円 

<支出サイド>
借金返済       200万円

こうなります。
何が変わったでしょうか。
大事なのは、「お父さんのやりくりだけではなく、お母さんのやりくりも見ないと、一家の財政状況はわからない」ということです。

まず、お母さんに渡していた20万円を趣味に使うことができるようになったので、
お父さんとしては、趣味に使えるお金が20万円増えました(80万円→100万円)。
ゴルフセットでも買い替えましょう。
使えるお金が増えたように見えますね。というか、確かに増えたわけです、親父の方だけ見れば。

では、お母さんのほうはどれだけ増えたのでしょうか。
最初のパターンでは、
200万円の借金を返済するために、お父さんから20万円もらい
足らない180万円を借金してきました。

【お母さん】※再掲
<収入サイド>
お父さんから     20万円
返済のための借金   180万円

<支出サイド>
借金返済       200万円

ところが、お父さんがゴルフセットを買ってしまったので、貰っていた20万円は無くなり、その分を追加で借金してこないと、今月期限の借金を返せなくなっています。
お父さんたら、ほんと困っちゃう。

【お母さん】
<収入サイド>
お父さんから      0万円 [before : 20万円]
返済のための借金   200万 [before : 180万円]

<支出サイド>
借金返済       200万円

つまり、一家全体で見ると、借金は20万円増えたことになります
お父さんが、お母さんに渡していた分を趣味に使ったので、その分の借金が増えたことになります。

当たり前のことを何言ってんの、というふうに思われるかもしれませんが、
本来、とても簡単な話なんですよね。
なんとか会計とか、なんとかルールとかが出てきて、
偉い人たちが小難しく喋っているのでわかりづらくなっていますが
物事はシンプルです。

償還ルールを無くして、お父さんからお母さんにお金を渡すのをやめても、お金は降ってこないので、一家全体で使えるお金は増えません。

だって一家の中でやりくりしてるだけですから。

 

使えるお金は原則として、外から入ってくるお金、つまり、収入(税収)と借金です。

なお、ここでしっかり整理しておきたいのは、
「借金をもっと増やせばいいじゃないか」というのは、全く別の議論だということです。
例えば、お父さんの収入が増えれば、あるいは増える見込みがあれば、返済力も上がりますから、借金ももっとできるかもしれません。
年収が高ければ高いほど住宅ローンが借りやすくなるのと同じですね。

ゴルフセットのかわりに、よーしお父さん資格取っちゃうぞなんつって、
借金して資格試験予備校費用を捻出して年収アップを狙っても良いかもしれません。
ただ、決して上手くいくとは限りません。
このお父さんは毎年夏ぐらいになると、「これが俺が考えた最強の成長戦略だ!」と言って壮大なメモを書くのが好きなのですが、うまくいかないことも多く娘から冷たい目で見られています。

あるいは、実際の政府は家計とは違って、
「政府はいくらでもお金を発行できるのだから、いくら借金しても大丈夫」という意見もあるようで、
個人的には、ちょっとそれは無理あるんじゃないかなと思いますが
いずれにしても、それは経済政策の一つの議論です。
これはまた別の機会に。

ただ、本稿で明確にしたいのは、
「償還ルールを無くしただけでは、お金が降ってくるわけではない
ということです。

これに賛同する人が多いと、政治家としては、本当は違うとわかっていても、
人気が取れる政策をある程度追求するインセンティブが生まれるので、
世の中もう少し冷静になるといいなと思います。


なお、蛇足ですが、中立的に議論する上で、あえて申し上げると、

「財源は出てこないにせよ、償還ルールは見直す」
というのは、論点設定としては、それはそれでアリなんだろうとも思います。

蛇足なので、飽きた方はもう読まなくてもいいんですが、
もう一度最初の状態を見てみましょう。

 

【お父さん】
<収入サイド>
収入      60万円
新しい借金   40万円

<支出サイド>
趣味      80万円
お母さんに渡す 20万円

【お母さん】
<収入サイド>
お父さんから     20万円
返済のための借金   180万円

<支出サイド>
借金返済       200万円


お父さんのところ、なんか無駄じゃないですか?
40万円の借金のうち、20万円はお母さんに払うためですよね。
これ、いらなくない?

 

【お父さん】
<収入サイド>
収入      60万円
新しい借金   20万円

<支出サイド>
趣味      80万円

(お母さんに渡す 0万円)

 

【お母さん】
<収入サイド>
返済のための借金   200万円

<支出サイド>
借金返済       200万円


借金の増額は20万円で、変わりませんね。
これでもよくない・・・?

ハイ、これはこれで、一つの議論だと思います。

あとは、ひたすら答弁で登場する「市場からの信認」とかいう論点が残りそうですが、これは私にはさっぱりわからないので、

もし市場関係者の方がこれをご覧になっていれば、ぜひコメントを頂ければと思います。

 

いずれにしても、このルールをいじることで、別に、この一家で使えるお金が増えたわけではないんだと思います。

暇な時に、こういう国の会計の仕組みを議論するのはよいですが、
子育てとか国防とか、色んな課題が山積しているので、
そっちが先なんじゃないかなと思います。

 

数年ぶりに、話題のトピックを放り込んでみましたので、足らないところなど、ぜひ色々と教えていただければと思います

 

 

今年はこんな感じで、中身のある話をもっとできればいいですね

 

 

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<おことわり>

 このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。

 また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。

(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)

http://www.soumu.go.jp/main_content/000235662.pdf