現役官僚おおくぼやまとの日記

※このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。

若手官僚から見た天下り

天下り問題が世間を賑わせております。

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これについて思うところをつらつら書いてみようと思います。

 テーマ柄、一つ間違うと色々なところに迷惑をかけそうなので、いつものやつを強調しておきましょう。まだPVもほとんどないブログだから何かに取り上げられることは万に一つもないでしょうが。

<おことわり>

 このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。

 また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。

(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)

 天下りが抱える諸問題については既に大量の論文・記事があるので今更私が書くようなことでもないと思います。実際に中で働いている若造が等身大で思うことを記します。繰り返しますが、あくまで私の所感であり、多数意見ですらありません。

若手官僚は天下りに対して何を思っているか

 まず、率直にいうと、問題意識はあるが当事者意識はなかなか持てません。無責任だ!当事者意識を持てよ!と言われることは重々承知していますが、正直まだちょっと当事者という感じがしないのです。。。よくわからないんですよ実態が。多分、メガバンク勤めの方にとっての不良債権隠しだったり、事業会社勤めの方にとっての粉飾決算と似たような距離感なのだと思います、想像だけど。「まぁもしかしたらうちもやってるかもしれないとは思ってたけど、細かいことはわからんなぁ。あ、やっぱりやってたのか」と。

 なので、仲間内で話していても「徹底的に追及してほしいよな」と、こういう声が圧倒的多数です。間違っても「何としても天下りを確保すべきだ」ということを言うやつはいません。まぁそれは当たり前か笑

 よく聞かれる言説として、「役人のモチベーションは天下り。渡りで得られる多額の退職金を目標に数十年間頑張る」と言うのがありますが、少なくとも我々クラスの職員でそんなことを考えている輩はいないと思います。最近入省してくるような最若手ならその傾向はより強いでしょう。

 何と言っても、天下りなんて先のことすぎます。若い時の方がお金が入りようになるシーンは多いんだから、今欲しいです笑 ジジイババアになってから大金もらっても困ります。今遊びたいです。海外旅行行きたいです。

 大学の同窓会に出ると給与的な底辺は基本的に我々国家公務員です。これは一歩間違うと炎上の火種になる発言であることは承知しています。つまり、平均よりは貰ってるくせに黙れと。それはそうなのですが、その職員に焦点をあてて見ると、少なくとも現在の給与については役所に入るよりは多くをもらえる仕事がたくさんあるわけです(もちろん、その彼が就活をして内定できるかはわかりませんが)。また将来の給与(=天下り)については、今回の事件に限らず天下り根絶は常々言われているので数十年後まで今のシステムが残っているかもわかりません。

 我々は給与も含め自由意志で今の職場を選んでいるので「わざわざ低い賃金で頑張ってるんだから感謝の一つもしてくれ」などというふざけたことを言うつもりは全くありませんが、「天下りのために官庁に入った」と言うのは多少無理がありそうだということはお伝えしたかったのです。

 

隠された問題は何か

 しかし、そういったことを考えていくと、むしろ若い世代は天下りに対してネガティブであるという事実にこそ闇が隠されているのではないか、という気がするのです。

 ちょっと人がよすぎる、性善説すぎる、と言われるかもしれませんが、今の幹部の世代、あるいはそれこそ国会に召喚されて答弁させられている文科省の関係者の世代が若かりし時も、同じぐらいピュアだったと思うんです。多分入省するときは、国のために頑張るぞ!と思いこそすれ、何としても天下りを維持してうまい汁を吸ってやるんだ、なんて思ってなかったと思うんですよね。霞ヶ関陰謀説のようなものを唱える方には根本的に受け入れられないと思いますが。

 冷静に考えると、天下りってコスパ悪すぎると思うんですよ。うまいこと、ある程度のところまで上り詰められれば立派なポストが用意されるでしょうが、途中でドロップアウトしたりするとそうはいかないはずです。しかも果実を得るまで数十年かかります。お金が欲しいんだったらもっとうまいやり方あると思うんです。みんなそこそこ頭いいんだし。

 しかし、蓋を開けて見ると、中央省庁は何十年も天下りという制度を維持し続けているんですよ。だから、ピュアだった新入省者がいつのまにか天下りを維持している側に回っている、この構造そのものが闇が深いと思うんです。語弊を生むかもしれませんが、まだ、天下り維持のために働け!とかいう教育を入省後に受けさせられてる方が健全ですよ。それを辞めさせればいいんだから。でもこの問題は組織に自然にビルドインされてしまっている。根が深い。念のためですが、そんな指導を受けたことはまだ一度もありません。

真面目な人が悪事を働いてしまう構造

 自分で言うのもなんですが、これまで真面目に勉強してきて今も真面目に仕事をしている人たちが多数を占める職場です。たまにとんでもない爆弾がいたりしますが、例外の話をしていても仕方ないので。

 今回の文科省の例を想像力をたくましくして妄想すると、人事ラインの要職に異動した際にその天下りスキームの引き継ぎが極めて事務的になされ、「それについてはあの人と相談してね。毎年そうだから。次にいく人はもう決まってて○○先輩。35年間頑張っていただいたからねぇ。じゃ頼んだよ、よろしく(肩ポン)」とか言われるわけです。

 そもそも、毎年やってんだからそういうもんかぁと思ってしまいそうですし、仮に疑問符を抱いたとして「ちょっと待ったぁ!」とできるかというと、これはなかなかの胆力が要求されると思います。よし、これをやればいいんだな、頑張るぞ、とか思ってしまっても不思議ではない気がします。

 私が言いたいのは、「それを変えるのは難しいよね、勇気がいるよね、天下りは仕方ないよね」ということでは決してありません。可能な限り撲滅すべきだと思っていますし、今回の事案も徹底的に追求すべきだと思います。

 私が思っているのは、組織として、こういった負の螺旋を断ち切るために、「ちょっと待ったぁ!」と言えるようなスーパーマンが流星のごとく現れるのを待つのは、時間がかかるし永遠に現れないかもしれないからリスキーだ、ということです。

 もちろん、仮に自分がそのような立場に置かれた時には疑義を呈することができるだけの判断力と度胸を身につけていきたいとは思っています。しかし。しかしです。それは逃げだ責任放棄だと批判されるかもしれませんが、よく考えると、私よりもずっと優秀(優秀とは何かを議論し始めるとややこしいことになるので、今回は流させてください)な先輩方が何十年も止められなかったのです。俺が変えてやる!と息巻くのは、気概があると言えば聞こえはいいですが、ちょっと無鉄砲な気がしてしまうのです。おそらくもう一人のスーパーマンではどうしようもないぐらい、根深い問題なのだと思います。しかし、役人は組織で仕事をさせればものすごい力を発揮する人種です。これを機に組織を上げて事態解決に臨みたいと思うのです。私は今そのような任についていないので横目で見ているしかできないのですが。

 何か変革を行う際には、自分たちだけではなかなか変えられない、というのは省庁に限った話ではないと思います。そこがコンサルの食い扶持な訳ですし。お恥ずかしながら、天下りはよくないから今年中に徹底的に調査して撲滅しよう、という話が内部から立ち上がることはほぼ無いだろうことが想像されます。人間・組織は外圧がなければなかなか変われないものだと思っています。だからこそ、今回の騒動は非常に良いきっかけだと思ってるんですよね。最悪のシナリオは、文部科学省だけの問題として収束してしまい、他の省庁は変革のチャンスを得られない、ということだと思います。年度末ですし、ご担当者の方々は非常に多忙を極めておられると思いますが、頑張って欲しいです。

そもそも

 思いのほか長くなったのであとはサラリと触れるだけにしますが、現状、天下りを行うことによって官民双方にメリットがあるというゲームの構造になっている以上、例えば法律を書き換えてより厳しくしたとしても、限りなく天下りに近い何か、は無くならないと思います。コメの価格を規制しても闇ゴメ市場ができてしまうのと同じです。天下りは色々な歪みの結果であって、根っこを正さないといかんと思います。一度役所に足を踏み入れたら死ぬまで他の会社で働くことは禁止、とかやれば別でしょうが、それは職業選択の自由があるので絶対に無理ですし。

 謎の独法の採用をちゃんと公募でやるとか(まぁそんなとこで仕事したい人なんていないかもしれんが)、そもそもヘンテコな独法を作るときはめちゃくちゃ厳しく審査するとか、入札の透明性とか、そういったところをテコ入れするのが本丸なので、天下りの議論は、もちろん大事なのですが、その時間があるなら本丸を攻めた方が長い目で見ると国のためになるよなぁとか思ってしまいます。

 

 

<おことわり>

 このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。

 また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。

(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)