行政が政策の立案をするな、というご意見を考える
最近、
「行政(or公務員)が政策の立案をするな」
「行政は決められたことを粛々と実行してくれれば良い」
というご質問がたくさんきていて全部答えられないので、まずここでまとめて簡単にお答えしておこうと思います。
それでもよくわからないことがあれば、またご質問ください。
政策の「決定」は私たちの使命ではありませんが、政策の立案はむしろ私たちが(正確には、私たち「も」かな? 独占しているわけではないので)やらないといけないと思います。
— おおくぼやまと@霞ヶ関 (@okubo_yamato) September 15, 2018
そこは切り分けて考えられた方がいいと思います。 #peing #質問箱 https://t.co/Q59fxxGtTE
ここで是非質問者様に一緒に考えていただきたい論点は
— おおくぼやまと@霞ヶ関 (@okubo_yamato) August 2, 2018
「議員から政策立案を求められたら」どうしましょうか
ということになります。 #peing #質問箱 https://t.co/48Qz0ygJss pic.twitter.com/jZHKgTO4hU
おそらくこれらの考え方のエッセンスは、
○公務員は選挙で選ばれていないので、民主的正当性が(その存在自体には)無い。
○よって、彼らが国の政策を考えているのはおかしい。
○国の政策は選挙で選ばれた政治家によって決めるので、公務員は決まったことに従って粛々と仕事をしてくれれば良い。
ということだと思います。
で、これは大筋では間違っていないと思っていて、特に最初の点は、むしろ、仕事上も常に意識していて、自分たちがやっていることは何の法令や上位組織の決定に裏付けられるものなのかというのは常に考えています。
実際、私たちは国の政策を「決める」ことは、制度的に、できません。
一方で、「立案する」ことは、これ、むしろ行政の仕事です。
実際、私たちが働いている組織のことを決めている「○○省設置法」の類には、ことごとく、○○の立案を行う、とか書かれています。(企画を行う、というパターンもあります)
どこでもいいですが例えば金融庁設置法には(短かったのでチョイス)
— おおくぼやまと@霞ヶ関 (@okubo_yamato) September 15, 2018
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第四条 金融庁は、前条第一項の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。
一 国内金融に関する制度の企画及び立案に関すること。
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と書かれています。
なので、立案をサボるとむしろ法律違反ということになります
上の方で引用した質問箱回答には『「議員から政策立案を求められたら」どうしましょうか』と書いていますが、これはtwitter上のやりとりで簡略化して書いているのですが、
理屈っぽく書くと、
立法府(国会議員)が設置法を(過去に)作り、その中に、「○○省は企画立案すること」と書くことで、行政府に対して企画立案を求めている。
ということになります。
じゃあ、決定と立案との境目は?ということになってくるわけですが、この境目は確かに曖昧で、まさに古典的な議論である「政と官の関係」みたいな議論になります。
例えば家族で、「家を買おう!」という話になったとしましょう。
これは家庭の運営に関する一つの重要な政策です。
不動産市場というのはとても難しいので、自分たちだけでは無数にある中から良い物件を探すことはできません。また、ローンを組むとなった場合、金融の知識も必要になってきます。
そこで、物件探しは不動産のプロに、ローンであれば銀行に依頼するとともに、FPに相談に行ったりします。
彼らから上がってくる内容(オススメ物件、ローンのプラン等)が、「立案された政策」です。
一方、立案された各種プランを眺めて、「このマンションにする、ローンはこの銀行の固定35年にする」というのが「決定された政策」です。
不動産のプロも、FPも、マンションやローンのプランを決めることはできません。当たり前ですね。
ただ、なぜこのマンションがいいのか?と依頼主から問われたら、理由を説明できないと良い不動産営業マンとは言えませんよね? それと同じで、私たちは、なぜこの政策が良いと思ったんだ?と問われるので、それに答えられる理由を詰めまくります。
営業マンが「俺はこのエリア好きなんですよねー」とか言っても、お前の好みは聞いてない、ということになりますよね?
この物件はオートロック付きでセキュリティは万全、将来はリビングの間に仕切りを入れられるので家族構成の変化にも対応できます。みたいな、プロの説明が求められるはずです。
そして、最後は政治判断ということになりますので、縷々説明した結果、「説明はとてもよくわかったけど、やっぱり俺は婿養子だから、嫁の実家に近いところにしないとダメなのです。ごめんな、こっちにするわ」という判断があってもいいわけですね。
まさにそのあたりが、政治と官僚との役割分担で、先ほど少々触れた「政と官の関係」という言葉でよく言い表されるわけですが、
官は、理屈しか依って立つものがありません。なので理屈を積み上げて立案します。
一方、政は最終的な責任を負いますので、理屈はもちろんですが、それだけではないあらゆるもの、それは「民意」も含みますが、それらを踏まえて、最終決定をします。
あとは例えば両者の信頼関係次第でこの関係は変化していきます。立案されてきた物件やローンが、本当に良心的なものなのか?という信頼ができなくなった場合、じゃあ俺が全部自分で調べる、ということになっていきます。
それはそれで、アリ、です。最終的には結果が大事なので、自分で全部調べて、良い物件が見つかって、良いローンが組めれば(あるいは別に即金でもいいんですが)良いわけです。(どうでもいいですが、実際、私は結構自分で調べる派です笑 旅行とか家電とかもろもろ)
これをやったのが民主党政権だったと言えるかもしれません。
いずれにせよ、まず、「政策の立案は行政府のお仕事(の一つ)」であることを共有しておきたいなと思ったのでした。
そうすれば、「行政は政策立案をするな」という論点が一つ解消されて、次のステップ、すなわち「行政が政策立案をするのはわかったけど、じゃあその立案プロセスは正しくやれてるのかい?」という議論に進むのではないかなと思います。
とりあえず今回はこの辺で。
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最近完全に消化不良になってますが、回答率80%を目指します。
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