国会答弁の作り方1 〜知って損はない 国会の前日に何が起こっているのか〜
「国会答弁書」という超ニッチな業界用語がこんなにも世間の注目を浴びたことがこれまであっただろうか。
というわけで、日々ニュースを賑わせている「答弁書」について、どのようなプロセスを経て作られて、最終的に「答弁」となって世に出ていくのか、というのを臨場感あふれる形でわかりやすく(そのぶん、長いです)ご紹介していこうと思います。
省庁ごとに微妙にやり方は違うのですが、職員でもない方々に細かい手続きを知って頂く必要もありませんので、まぁこんなもんなんだなということでお読みいただければ。
いつもの記事の構成なら、「そもそも答弁書とは」「国会質疑とは」みたいな定義から入るのですが、今回はあえてそれを後回しにして、「今、霞ヶ関で何が起こっているのか」を淡々とお伝えすることに重点を置いてみようと思います。
その方が、これってそもそも何のためにやってんだっけ、といった形でゼロベースでご関心を持っていただきやすいかなぁという、まぁ一つの思いつきです。
公務員は、みなさんが雇用主とすると、ある意味では「従業員」なわけですから、自分のところの従業員が今何をしてるのかを知って頂くのは意味があることなんじゃないかなと。税金で雇っていただいているわけですから。(これは、この記事に限らず、当ブログの運営において私が常に意識していることでもあります)
子供(と言っても中高生ぐらい?)にもわかるように頑張って書きます。
以下、下記のプロセスに沿ってご説明します。
順番はこれに限るわけではないのですが、ここでは説明のわかりやすさを重視して順番を設定しました。
- 1. 国会日程決定(質疑の数日前〜前日)
- 2. 質問者決定(数日前〜前日)
- 3. レク(問取りレク・議員レク)の日程決定(前々日〜前日夜)
- 4. レク(前々日〜前日夜)
- 5. 割り振り(レク終了後直ちに)
1. 国会日程決定(質疑の数日前〜前日)
こんなの関係ないじゃん、とお思いかもしれませんが、ここから仕事は始まっているのです。
国会日程と書きましたが、実質的な議論は両院に設置される「委員会」で行われますので、委員会の日程だとお考えいただいて結構です。
委員会の日程が決まり、例えば、担当している法案の審議が行われるということがわかると、その日の前日は大量の質問通告が入りますので、帰れなくなります。もし飲み会の予定が入っていたら、キャンセルします。
(霞ヶ関人に飲み会をドタキャンされたことがある方、そういう事情なのです。。。どうかわかってください、すみません)
なお、委員会日程がギリギリまで決まらないということもあります。例えば前日の夕方に与野党協議の結果、明日8:50から委員会を開催する、と決まるみたいな。そうすると、質問者(国会議員)も急遽質問しなければならなくなるわけです。
巷では「質問者(国会議員)が質問を提出するのが遅い」という批判があるようですが、そのような側面は確かにあるのかもしれませんが、質問者だけに責任を押し付けるのは適切ではないシーンもあります。
国会答弁の作り方の話なのに、国会日程の話からスタートした理由がなんとなくおわかりいただけたでしょうか。
2. 質問者決定(数日前〜前日)
その委員会でどの議員が質問するかが決まります。
どう決めるかは党内の話ですので、割愛しますし、詳細までは知りません。
あまり存じ上げない議員の場合は、ブログとかを眺めて、関心事項を調べたりもします。最近「○○法だけは断じて許せん、徹底的に追求する」というブログを書かれていたら、これはいよいよ帰れないだろうなぁということで着替えや歯ブラシを持ってきたりします。
3. レク(問取りレク・議員レク)の日程決定(前々日〜前日夜)
まずレクという聞きなれない用語について説明しなければなりませんね。
レクというのはレクチャーの略ですが「今度の議論では、おたくの大臣(あるいは副大臣・政務官・政府参考人)にこういうことについて質問しますよ」ということを省庁の事務方に伝えることです。
質問を聞き取りに行くので、「問取りレク」とか、議員のお話をうかがうので「議員レク」とかいろんな呼び方があります。
このレクの日程なのですが、割とギリギリに言われることがあります(そうじゃないことももちろんあります)
16:00に連絡が来て「この後17:00からレクを行うので通告先省庁担当者は集まられたし」みたいな感じです。
こういった連絡は、まず、国会内にある各省の事務所(控え室とか国会連絡室とか言ったりします)に入ります。役所は国会内にも事務所があるんですよ。
これを受けて、あとでまた出てきますが、本省の官房総務課に連絡を入れます。
官房総務課はこの連絡を受けると、誰が行くのかを省内で急いで決めて、国会の隣にある「議員会館」の中の議員事務所に向かわせます。質問が複数の省庁にまたがる等、出席する事務方が多い場合はとても議員事務所に入りきらないので、広い会議室で行ったりします。私が出席したもので最も大きいものだと5-60人ぐらい集まっていたことがあった気がします。
なお、鋭い方はお気づきかもしれませんが、この時点でまだ質問の内容が詳細にわかっていないパターンがあります。
どんどん長くなって読みづらくなりますが、雰囲気をお伝えするためにここは紙面を割かせてください。
質問者サイドから与えられる情報のパターンとしては大きく2つあります。
○ 質問要旨
○ 質問全文(ないし、それに準じるレベルの情報量があるもの)
また、必ずこれらが送られてくるわけではありません。
要旨だけの時もありますし、要旨にも
「予算について全般的に質問します」
みたいな簡単なことだけで、ほとんど教えていただけないパターンもあったりします。これは割と全霞ヶ関がお祭りになるパターンです。
当然、質問者は質問者で忙しい中で質問を考えるわけですから、まず要旨を組み立てて、そこから質問を書き上げて、ということになります。些細な情報だけでも早めにわかると大変助かるので、まず要旨だけでも送っていただくのはありがたいのです。
そして、この時系列と同時並行してレクが設定されるので、要旨ができてからレクが行われる時もあれば、要旨の作成も間に合っていないが、遅くなっても悪いので「とりあえずレクします」ということもあるわけです。
そうすると、何が起こるかというと、どんな内容であっても対応できるように、複数の職員で向かったりするわけです。で、レクが始まった瞬間に「○○省には数字について1問だけ答えていただければ」と言われたりして、なーんだ、となって帰ったりします。
逆に、レクの現場で、「やっぱりこれも聞こうかな」みたいなことになると、急遽担当者を呼び出したりします。この辺りは結構ギリギリの戦いです。
それから、複数の議員のレク時間が重なると、割と焦ります。というか、詰みます。まぁ「なんでもできるスーパーマン」みたいな人に頼んだりして、気合いで乗り切ります。
逆に、「レクは実施せず」に、「要旨のみ対応」というパターンもあります。質問の要旨が書かれた紙だけ送られてくるわけですね。
ちゃんと質問事項が記載されていれば、別にそんなに困らないです。
(何も書かれていないと、阿波踊りレベルの大騒ぎになったりします)
この項目に限らず、本当に色々なパターンがある、ので、今回の記事に書いてあることはあくまでイメージとして捉えていただくのが良いと思います。
ちなみに、たまに忘れられるのですが、防衛省って市ヶ谷にあるんです。
なので、レクの設定時間がギリギリだと、防衛省だけ少し遠いですから微妙に遅刻したりします。防衛省は霞ヶ関じゃなくて市ヶ谷にあります!
4. レク(前々日〜前日夜)
さて、レク本番です。
基本的に質問者である国会議員が、こういうことについて聞きますね、というお話をされますので、それをメモに取って、終了後、携帯電話で簡単な報告を入れてから、本省に帰って報告します。
ただ、そんな簡単には済みませんので、ちょっと難しいパターンをご紹介しておきます。
① 聞いてもやっぱりよくわからない時
ものすごくざっくりとしかお話しして頂けない時があります。
このまんま役所に戻っても「もっとちゃんと聞いてこいよなー、使えねーなお前は」ということになりますし、まぁ怒られるぐらいなら全然いいんですけど、実際、なにを準備していいのかわからないのは辛いので、ここは勇気を出して「もう少し具体的に問題意識をお伺いできませんでしょうか」と聞いてみます。特に、大人数のレクでは慣れていないとなかなか勇気がいったりします。
これでも教えてもらえないと、もう仕方ないです。
② どの省庁が書くべきかはっきりしない時
これだから役人はお役所仕事なんだよなぁ、と思われるかもしれませんが、実際問題、誰かしらが作業をしなければなりませんから、その担当者が決まらないというのは困ったことになるわけです。役所に限らず、組織勤めの方であればおわかりいただけるかと思います。
そういえば、映画シンゴジラでも、「それ、どの省庁に言ってます?」みたいなシーンありましたよね。あれは、結構リアルです。多くの同業者が、あるあるーって思ったはずです。
そこで、やはり「もう少し具体的に問題意識を・・・」とやるわけです。
ここでややこしいのは「議員の問題意識はものすごくしっかりされているのに、ちょうど所掌の間に落ちてしまっていて、どこが書くべきか明白ではない」というパターンでして、その場合、議員の貴重なお時間を使うのは宜しくないので、レクが終わった後に、省庁間での議論が始まったりします。
ただ、これもケースバイケースなのですが、喧嘩するという感じではなくて、お互い仲間ですから、喧嘩で時間使っても仕方ないので、冷静に話をします。(まぁ、喧嘩っぽくなってるシーンも見かけなくもないですが、あんまり無い気はします)
5. 割り振り(レク終了後直ちに)
順序的には、まずどの省庁が書くのか、から始まるはずなのですが、
ここまで読んで頂いた方はお分かりだと思いますが、レクが終わった段階で、すでにどの省庁が書くかまではほぼ決まっていますので、レクが終わってもまだ省庁間で熾烈な割り振り争いが繰り広げられることはあまりないと思います。
さて、省庁の割り振りが終わったら今度は省内の割り振りになります。
これを差配するのはまずは「官房総務課(省庁ごとに名称の違いあり)」です。「官房」とか略したりします。
官房がまず、局に割り振ります。
その割り振りを受け取った局の総務課が、今度は局内の各課に割り振っていきます。各課ではさらに、担当者ベースに割り振っていきます。
それぞれの段階で、割り振りに疑義があれば、それはうちじゃないだろう、ということで戦っていきます。これを割り振り揉め、通称「ワリモメ」と言います。
こういう構造になってるわけですね
レク
→各省庁(の官房総務課)
→各局(の総務課)
→局内各課(の国会取りまとめ担当者。総務係、とか)
→課内の担当者
で、自分が担当する可能性が0にならない限りは、理論上は(追って補足します)待機が発生してしまうわけです。
逆に、割り振り作業が徐々に下の階層に進んでいく結果、待機が解除される人が増えていくということになります。
世間で言われる「全霞ヶ関職員が待機する」というのは、一番上の階層、つまり質問の要旨が出てきておらず、レクすら終わっていないという状況です。
「全霞ヶ関職員が待機」というのはキャッチーなのでよく使われるフレーズですが、全ての委員会でそんなことになるわけではなく、基本的に「予算委員会」ぐらいですかね。「予算委員会」は国の予算について議論する場ですが、予算とは国の運営そのものですので、事実上なんでも議論できる場なのですね。そうなると、省庁間割り振りが完了するまではどの省庁のどの部局が答弁作成を担当するかが明らかではないわけですから、帰れないわけです。逆に、予算委員会が開いている間はこういう状態はよく発生します。財務省に限らず、予算が通るとホッとするのはそういう事情もあります。今年も無事成立しました。
で、先ほど「自分が担当する可能性が0にならない限りは、理論上は(追って補足します)待機が発生してしまう」と書きましたが、実務上はさすがにそこまで非効率なことはしておりませんでして、「いくら予算委と言っても関係ないだろう」と思われる部署もたくさんありますので、その場合は省内の割り振りをする取りまとめの担当が「(待機を)解除」することもあります。この辺りは取りまとめ担当の腕の見せ所です。質問者の過去の傾向なんかを参考にして、ここが聞かれることはまずないだろうな、ということで、解除を出していったりします。稀に、やっぱり当たった!帰ってきて!ということもあって、それはもう本当に悲劇なのですが。
それから、連絡がつきさえすれば外に出てもいいみたいなパターンもあります。
さらには、端末と電話さえあれば家でも仕事はできますので、そのような運用をしているところもあります。
この辺りは、霞ヶ関内の業務効率化、の話ですね。
さぁ、割り振りが完了しました
ようやく答弁作成の始まりです!!
続きます。夜は長いのです。
(4/1追記)
続きはこちらです。
kasumigasekipeople.hatenablog.com
Twitterやってます。
<おことわり>
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(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000235662.pdf