現役官僚おおくぼやまとの日記

※このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。

官庁訪問の噂 その1 試験の順位

 今週後半はなんだか学生さんが大量にいるなぁと思って聞いて見ると、中央省庁合同の業務説明会が開催されているということでございました。

 ものすごく懐かしい気持ちになったので、官庁訪問について少々書いてみようと思いますよ。

 官庁訪問を語るというのは、内定者が内定者説明会やら官庁訪問体験記ブログやらをやたらやりたがり、ドヤ顔でまだよく知らない内定先の役所のことを語っている絵が思い浮かんでしまい、あまり気が進まなかったのですが、下記2点について採用をやっていた時(お手伝いしたことがあります)から気になっていたので、参考にしてくれる学生さんが少しはいるかなと思い、書いてみる次第です。もしかしたら役所の先輩方から、この若造は何調子乗ってんだと思われるかもしれませんが。。。

 

-とにかく情報が無さすぎるため正確でない噂(例:試験の順位関係)が蔓延しやすいゲームの構造になっており、それが有為な人材を獲得する妨げになっていること

-特に地方出身の学生さんが訪問に来てくれないことが気になっており、彼らにとっての一番の障壁は情報の無さにあること

 

 可能な限り正確な記載に努めますが、私も全ての役所の採用事情や今年の動向がわかるわけではないし、そういうふわふわした情報を自分の頭で咀嚼して血肉とできる人は是非ご覧ください。 そもそも私は実は役所とは何も関係無い人間で適当なこと書いてるだけかもしれませんし笑

 

大きな目次(今後の予定)

1. 根も葉もない噂への反論と、噂が流れる理由

2. 何をすべきか

3. 頑張れ地方の学生さん

1. 根も葉もない噂への反論と、噂が流れる理由 

 根も葉もない噂は官庁訪問名物です。毎年のことです。適当にあしらっておけばいいのです。が、とにかく情報が無さすぎることに加え、ある程度納得してしまうような理由があるから噂は流れるのであって、信じてしまって迷走する志望者が少なくないのです。

 さて、個別の噂について言及する前に、「相関と因果」について述べておきます。というのは、官庁訪問の噂のほとんどは相関関係と因果関係を取り違えているだけ、だと思うんです。例えば、「特定の省庁では東大生が優遇される」という噂の王様がありますが、これは、その役所に訪問に来る総学生に占める東大生比率が高い、という事実が大きく影響しているに過ぎません。人事院は各省庁の大学別訪問者数を公表すべきだと思ったりもします。(まぁそれをやると、やっぱりうちの大学からはほとんど行ってないんだ……と思って敬遠しちゃうのか。噂を覆すのは難しい)

 これらの噂に関する話題を扱うのが難しいのは、実際に東京大学の学生さんは「平均を比べれば」学力も論理的思考力も高いはずなので、おそらくですが、仮に各大学から全く同じ人数が訪問したとしても、東大生の内定者が多くなる傾向があるとは思います。ただし、就職活動・官庁訪問個人戦であって大学別団体戦ではありません。また試験と異なり客観的な数値の競争ではなく、相性などの定性的なマッチングの場です。あくまで個人の力量が試されるのです。大学別の予定採用数なんて設定しないと思いますよ。むしろ地方の大学からは最低一人ずつ採るぞ、という枠なら省庁によってはありそうですが。地方大学の方が学歴差別の噂を信じて第一志望を敬遠したために、その学生さんがその省庁を訪問していれば採用されていなかったはずの東大生が内定する(その結果、例の噂の信ぴょう性がますます高まる)ということが多発しているのが現在の官庁訪問です。ドラゴン桜現象(ドラゴン桜が流行した直後の大学受験では、地方公立校の東大合格者数が増え、都内の名門私立高校が実績を落とした)を思い浮かべていただければ。

「因果関係と相関関係」を冷静に分析してみてほしいと思います。

 

【噂その1】国家公務員試験の順位がいいほど官庁訪問で有利

<一言で言えば>

 99%嘘です(1%は後述)

<噂を信じてしまう理由 初心者編>

 「そりゃ順位が出ている以上、いい方がいいに決まってるでしょう」

<噂を信じてしまう理由 上級者編>

 「試験は事務処理能力を測っている側面もあるから、良い方が評価されるだろう」

 

<解説>

 前述した東大バイアスの噂が王様だとしたらこれは女王でしょう。まーとにかく大勢の学生さんが気にしてますが、これは99%嘘です。学生さんがごちゃごちゃうるさいので、もう人事院は順位発表するのやめてくれよ、と思っている採用経験者の知り合いは結構います。過激派(笑)は、採りたかったイケてるやつが試験に落ちて採用できなかったので、もう人事院は試験やめろとすら言ってます。

 まぁ試験を無くすと人事院は仕事を一つ失って予算と定員が減るので絶対に無くならないでしょうね笑 あとは真面目な話をすると、専門的な知識を持つ人材を登用するというのは古くは科挙から続く官僚制の根幹の思想であり、そのために国家公務員法にも試験を行うことが定められているので、試験は無くなりません。まぁ個人的には、ザルみたいな試験にするか、貴重な税金を節約するために、「みんなセンター試験と法学検定と経済学検定とTOEFL受けて結果を提出してね!」とかしちゃえばいいと本気で思っています。あの規模の試験を実施するのってかなりコストかかりますからね。そういうところから節約していかないと。

 要するに、その程度なんですよ

 とは言え、それだけだと納得していただけない方が多い気がしますので続けます。

 まず大前提として、官庁訪問は資格試験の最終面接ではなくあくまで就職活動です。未だに、資格試験難易度ランキング!みたいなやつに国家公務員試験が名を連ねていることに違和感があります。しゅーかつなんですよ! 試験に合格することは民間の就活で言えば、ES(エントリーシート)を出す程度の意味合いしかありません順位が良いことはESに何やらすごいことが書いてあるとか字が綺麗だとかその程度のインパクトです。ESにいくらすごいことが書いてあっても会ってみて実物がしょぼかったら落とされますよね。ESが汚くて読む気がしなければそもそも会いませんがそれが国家公務員試験における、試験に落ちる、という状態です。だから国家公務員試験はコストパフォーマンスが最悪なESなんですよ。むしろ最下位合格の人が一番の勝ち組かもしれません。

 なぜこんなことになるかと言えば、要するに「試験の中身と入省後のパフォーマンスはほとんど関係無い」、これに尽きます。逆にいうとこの噂を信じてしまう方は霞ヶ関勤務に対して何かしら誤解されていると思います。私が一番気になるのはむしろこの点です。そういう方は説明会で具体的な仕事について根掘り葉掘り質問するか、どんなに理不尽なことが自分の身に降りかかっても国のために働くぞ、という決意を固める作業をされた方がいいです。

 毎日椅子に座り続け、パソコンにひたすら表示される事案に対する条文の当てはめを考え、とある規制を緩和した際の経済厚生の改善に関する机上の空論を並べ、1日の最後に息抜きに数的処理をして定時に帰るだけのお仕事、なら多分成績上位者から採用することは合理的ですが、

 実際は、入省直後なら、早朝の大臣へのご説明に合わせて日の出と前後して出勤し、上司が徹夜して書き上げたペーパーを数十部コピーして省内に配り歩き、国会中継を見て大臣が間違ったことを言っていないかリアルタイムでチェックしてみたり、数年経ったら、明日の国会で聞かれる質問について誰が担当するかを省内各所と電話して喧嘩腰で揉めてみたり(いわゆる「ワリモメ(割り振り揉め)」というやつです)、善良なる市民の方からかかってきた天下りについての苦情電話をたまたま取ってしまい2時間ほどご対応させていただいたり、明日の国会の質問が先生から提出されるのが遅れて作業開始も遅れ気がついたら深夜2:00ですとか、まぁそういう仕事があるわけです。

 「そういう仕事ばかりです」ということではないですが、そういったことにも耐えつつ、隙間隙間で勉強してく要領の良さ(例えばコピーを省内に配っている間に中身を盗み見て勉強するとか)とか、そういうことすら求められてきたりするので、もはや試験の出来なんて全く関係無いです。

 もちろん、法案を作成したり経済学的な分析を求められる仕事は当然あります。役所ですから。なんだやっぱり関係あるんじゃん、とお思いかもしれませんが、それはできるできないではなく、「やれ」の世界です。経済学部出身者が法案作成させられることなんて日常茶飯事ですし、逆もまた然り。職員を異動させるにあたって、試験順位なんてまず見ていないはずです。これは、私は異動関係の人事をやったことがないので憶測ではありますが。う〜ん・・・でも確実に見てないと思うなぁ。

 逆に、やれ!と言われてやれる程度の最低限の能力は必要なんだからやっぱり順位が良い方が良いんじゃないの?と思うかもしれませんが、試験に合格している段階でその基準には到達している、とお考えください。その中の違いは誤差です。法案のタコ部屋(法案を作成する一時的な特殊部隊のこと)を作るときなんてそれこそ、体力とか声の大きさとか部下の人心掌握力とか、そういうのを見る方がよっぽど合理的だと思います。法律が特殊言語で書いてあるならまだしも今は基本的に口語で書いてあるんですから、やる気と根性さえあれば何とかなります。やる気と根性がなければ成績が良くてもアウトです。

 薄々おわかりいただけたでしょうか。そんな世界ですので、順位なんて全く関係ありません。そうは言っても内定者に聞いたらなんだかんだで「○○省は2桁順位じゃないと厳しい、実際に今年の内定者は・・・」とかいうくだらないドヤ顔トークを聞くかもしれませんが、それは例の「相関と因果」が影響している可能性がありますよね? つまり「○○省は2桁順位じゃないと厳しい」という噂が流布すればするほど、3桁順位の方は訪問を回避し、結果的に「○○省は2桁順位じゃないと厳しい」という事実が固定化されてしまうわけです。

 試験の順位なんて、当日のコンディションとか得意分野不得意分野とか、面接官との相性とかで大幅に変動しますし、そのことは試験の経験者である各省人事担当者はよくわかっているので、そんなものは気にせず、一番入りたい省庁に挑戦するのがいいと思います。それがあなたのためでもありますし、国家のためでもあります

 

 ちなみに冒頭で99%嘘です、と書きましたが、残りの1%は

 その年の内定者を幹部に報告する際に、

偉い人「ちなみに今年の内定者には1位はいるの?」

担当者「いやおりません」

偉い人「ふーん、そっか」

 という会話が交わされる可能性があるかもしれない、と、まぁそんなところです。仮に1位がいても

偉い人「ちなみに今年の内定者には1位はいるの?」

担当者「法律職の1位がおります」

偉い人「へー、良かったね」

 と変化する程度です。1%の部分はそんなもんです。

 同じレベルの学生が複数いたら成績のいい方を採用するだろう(から成績は良いほうがいい)という、なかなかごもっともな意見もありますが、それも怪しいです。

 最後に成績に頼って選ぶのは、「私は見る目がないので成績で選びます」と採用担当者が言っているに等しいので、そんなことはやりたくないのです。それに、受験のように点数で評価するわけでもないので、実際には「成績以外はほぼ同じ水準」ということは起こりえません。性格や思想、ほかにもいろんな要素があります。「同じレベルの学生が複数いたら成績のいい方を採用する」と本気で思っている方は、多分就職活動というものを理解されていませんので、注意されたほうがいいと思います

 

 当然、全ての省庁の採用方針を知っているわけではないので、もしかしたら「是が非でも1位の学生を採用するように」とかいう上からのお達しがあるところがあるのかもしれませんが、個人的な感触では、そういうことはあまりしないんじゃないかなと思います。

 

 

 なんだか想像以上に長くなってしまったww

 本当は他にも色々と書くつもりだったのですが、一度切りますかね。このままだとちょっとした論文レベルの長さになりそうです。

 気が向いたらまた別のことを書きます。疲れたのでこれっきりかもしれません。

 もし奇遇にもこの記事を見かけて、「なんかこいつの言ってることは参考になるかもしれないからもっと書いて」とかいう要望があればお寄せくださいませ。

 

 

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<おことわり>

 このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。

 また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。

(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)