新型コロナ特措法を一緒に読む 〜緊急事態宣言って何だ〜
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非常事態宣言しても、特措法上やれるのは要請・指示まででは
— おおくぼやまと@霞ヶ関 (@okubo_yamato) 2020年3月22日
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そりゃそうなるよね、他の興行は皆やってるのに、規模がデカイから辞めろって言われても主催者は拒否するよね。だから要請じゃなく禁止にするために非常事態宣言すべき。#Yahooニュースのコメント https://t.co/masC0HaJJV
報道もよくされていた新型コロナ特措法ですが、「総理が緊急事態宣言できるようになった!」とかいった話だけが広がっていて、中身がどこまで知られているのかよくわからなかったので、書いてみました。
法律は(昔と違って)口語で書かれてますので、ちゃんとしたアシストがあれば誰でも読めます。
せっかくの機会だから法律を読んでみよう、というのが主眼の記事ですので、手っ取り早く要点が知りたいんだという方は、コロナ特措法 まとめ とかググっていただいた方が良いと思います。
気合が入っている方は別窓でこちらを開いて並べて読んでみてください。
第一章 総則 〜前書きみたいなもの〜
第一条(目的)
法律の目的が書かれてます。どの法律も最初に、なぜこの法律を作るのか、という目的が書かれてます。抽象的なことしか書いていないので、この条文を根拠にして争いになることはあまりありませんが、法律を理解する上では最初に目を通しておくと良いです。
(以下、下線太線は全て筆者)
第一条 この法律は、国民の大部分が現在その免疫を獲得していないこと等から、新型インフルエンザ等が全国的かつ急速にまん延し、かつ、これにかかった場合の病状の程度が重篤となるおそれがあり、また、国民生活及び国民経済に重大な影響を及ぼすおそれがあることに鑑み、新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画、新型インフルエンザ等の発生時における措置、新型インフルエンザ等緊急事態措置その他新型インフルエンザ等に関する事項について特別の措置を定めることにより、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号。以下「感染症法」という。)その他新型インフルエンザ等の発生の予防及びまん延の防止に関する法律と相まって、新型インフルエンザ等に対する対策の強化を図り、もって新型インフルエンザ等の発生時において国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的とする。
・大部分が免疫を獲得していない
というのがキーポイントで、その結果
・(局所的ではなく)全国的に、(ゆっくりじゃなく)急速に蔓延するのが恐ろしくて、
・かかったら重篤化するし、健康だけじゃなくて経済にも影響を及ぼすので
ちゃんと対処しましょう。というのが目的です。
ここで、先日成立したのは今猛威を振るっているコロナについての法律でしょ? インフルについての法律を紹介されても困るよ、と思った方がいらっしゃるかもしれませんが、
ちょっと前に大流行した新型インフルエンザ対策で作っていた法律(2012年に成立)の枠組みが今回も使えそうだぞ、ということで、それをマイナーチェンジしたのがいわゆるコロナ特措法だと思ってください。改正しなくても使えたんじゃないの、という議論もありましたが、それについては割愛します。
先日の改正法では、「附則」という、法律の最後の方についている注意書きみたいなところをちょっと改正しただけです。
附 則 抄
第一条の二 新型コロナウイルス感染症(病原体がベータコロナウイルス属のコロナウイルス(令和二年一月に、中華人民共和国から世界保健機関に対して、人に伝染する能力を有することが新たに報告されたものに限る。)であるものに限る。第三項において同じ。)については、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律(令和二年法律第四号。同項において「改正法」という。)の施行の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日までの間は、第二条第一号に規定する新型インフルエンザ等とみなして、この法律及びこの法律に基づく命令(告示を含む。)の規定を適用する。
法律にはインフルって書いてあるけど、コロナにも同じ扱いでよろしく、ということですね。これはかなり突貫工事的でもあります。本格的にやるなら本文を書き換えることもできなくはないですからね(すごく大変です。この状況下ではコスパが悪すぎるでしょう)。
ですので、本文を読んでいるとコロナという文字は一度も出てきません。その点、ご注意ください。
法改正の仕組みは本筋から外れるので、別の機会にします。
第二条(定義)
法律に出てくる言葉の定義が書かれてます。
例えば
三 新型インフルエンザ等緊急事態措置 第三十二条第一項の規定により同項に規定する新型インフルエンザ等緊急事態宣言がされた時から同条第五項の規定により同項に規定する新型インフルエンザ等緊急事態解除宣言がされるまでの間において、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにするため、国、地方公共団体並びに指定公共機関及び指定地方公共機関がこの法律の規定により実施する措置をいう。
こんな感じです。あんまり読む気がしませんね。
こういうところは、何かわからない単語が出てきたら戻って読めばいいので読み飛ばしましょう。
第三条 (国、地方公共団体の責務)
国や地方、つまり行政機関がやらないといけないこと(責務)が書かれています。
6 国、地方公共団体並びに指定公共機関及び指定地方公共機関は、新型インフルエンザ等対策を実施するに当たっては、相互に連携協力し、その的確かつ迅速な実施に万全を期さなければならない。
こんな感じです。
当たり前の話じゃん、と思った方も多いと思いますが、確かにここは責務というよりは理念とか気持ちみたいなことに近いので、今回は読み飛ばしましょう。
第四条(事業者及び国民の責務)
事業者や国民の責務が書かれてます。なんと、みなさんにも責務が発生しているのですね。というわけで、全て紹介しましょう。
第四条 事業者及び国民は、新型インフルエンザ等の予防に努めるとともに、新型インフルエンザ等対策に協力するよう努めなければならない。
2 事業者は、新型インフルエンザ等のまん延により生ずる影響を考慮し、その事業の実施に関し、適切な措置を講ずるよう努めなければならない。
3 第二十八条第一項第一号に規定する登録事業者は、新型インフルエンザ等が発生したときにおいても、医療の提供並びに国民生活及び国民経済の安定に寄与する業務を継続的に実施するよう努めなければならない。
結局、努力規定で罰則も何もないのですが、とりあえず、こういうことが書かれている法律が先日成立した(改正されてコロナにも適用されるようになった)のは知っておくと良いかもしれません。対策に協力しないといけないんですね。
第五条(基本的人権の尊重)
人権規定が書かれてます。
第五条 国民の自由と権利が尊重されるべきことに鑑み、新型インフルエンザ等対策を実施する場合において、国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない。
唐突になぜこんなものが出てくるのかということなのですが、感染症対策というのは人権制限と隣り合わせなんですよね。
それこそ、最近話題の外出禁止みたいな話は移動の自由を奪うわけです。検査というのも、人体へ働きかけるわけですから気をつけないといけない。
そういうわけで、人権規定が設けられています。
第二章 政府行動計画
(読み飛ばして良いです)
第六条から第十三条までは、国(六条)や都道府県(七条)、市区町村(八条)などが、行動計画を作らないといけませんよと定めてます。
ただ、今回は、コロナが広がり始めた時にはまだこの法律は適用できなかったので、本法による計画が定められる状況ではありませんでした。
そのため、附則第一条の二3項で、既に(新型インフルのために)定められていた計画は新型コロナにも使えます、ということが書かれてます。興味ある人は眺めて見てください。引用も省略します。
ただ、あくまで今あるやつは新型インフルのためのものなので、今後書き換えられるのかもしれませんし、そこは今後の動きを見ていく必要があります。
ということなので、本稿では割愛します。
第三章 発生 〜対策本部を設置〜
第十四条(報告)
第十四条 厚生労働大臣は、感染症法第四十四条の二第一項又は第四十四条の六第一項の規定により新型インフルエンザ等が発生したと認めた旨を公表するときは、内閣総理大臣に対し、当該新型インフルエンザ等の発生の状況、当該新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度その他の必要な情報の報告をしなければならない。
第十五条(政府対策本部の設置)
第十五条 内閣総理大臣は、前条の報告があったときは、当該報告に係る新型インフルエンザ等にかかった場合の病状の程度が、感染症法第六条第六項第一号に掲げるインフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度以下であると認められる場合を除き、内閣法(昭和二十二年法律第五号)第十二条第四項の規定にかかわらず、閣議にかけて、臨時に内閣に新型インフルエンザ等対策本部(以下「政府対策本部」という。)を設置するものとする。
読んで字のごとくです。
本日のこの動きは、この条文に沿ってのことであるのがよくわかりますね。
なお、同じ名前の対策本部は1月30日には設置されていますが(下記URLの最後のページ参照)、
新型コロナウイルス感染症対策本部の設置について 令和2年1月 30 日 閣議決定
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r020130.pdf
この法律に基づいて、ということがちゃんと書き加えられています。
新型コロナウイルス感染症対策本部の設置について(令和2年3月26日 一部改正)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/konkyo.pdf
同じなんだからどうでもいいじゃないかと思うかもしれませんが、こういう一つ一つの積み上げが大事なんですね。
以下、第二十一条まで対策本部のことがゴニョゴニョ書かれているので、飛ばします
第二十二条(都道府県対策本部)
第二十二条 第十五条第一項の規定により政府対策本部が設置されたときは、都道府県知事は、都道府県行動計画で定めるところにより、直ちに、都道府県対策本部を設置しなければならない。
政府が対策本部を設置したので、都道府県も直ちに対策本部を設置しないといけなくなりました。
以下、第二十七条まで都道府県対策本部のことが書かれているので、飛ばします。
二十八条〜三十一条も大事なことが書いてありますが、ちょっと長くなってきた気がしますので思い切って省略します。
第四章 緊急事態措置
第三十二条(緊急事態宣言)
第三十二条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第五項及び第三十四条第一項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする。
ということで、緊急事態宣言する時は、その措置を実施すべき期間と区域を定める必要があります。
だから、とりあえず東京だけとか、関西地方のみとか、できます。
やはり地域ごとに多少なりとも状況のバラツキが発生するので、それぞれに合った対応が求められるわけです(これは、後で出てきますが、知事の役割が非常に大きい立て付けにも関係します)。
なお、政府対策本部長というのは総理のことです(第十六条)。
ただ、「総理が宣言できる」とは書かれておらず、「政府対策本部長が宣言できる」と書かれてます。ここがミソです。
つまり、政府対策本部を設置しないと政府対策本部長は存在しないわけですから、この法律に基づく緊急事態宣言はできないわけですね。
緊急事態宣言ができるようになったぞ、という報道がありますが、それは何を言っているかというと、この法律に基づく政府対策本部が設置されたので第三十二条が発動する要件が整った、と、こういうことなのです。
第三十四条(市町村対策本部)
第三十四条 新型インフルエンザ等緊急事態宣言がされたときは、市町村長は、市町村行動計画で定めるところにより、直ちに、市町村対策本部を設置しなければならない。
二十二条を思い出してください。都道府県の場合は、政府対策本部が設置されたら対策本部を設置しないといけませんでした。市町村の場合はタイミングが一つ遅くて、対策本部が設置され、さらに緊急事態宣言がなされて初めて、対策本部の設置義務が生じます。
第四十五条(感染を防止するための協力要請等)
長いのですが、大事、というか、世間の注目を集める事案において根拠になる条文なのでそのまま引用しておきます。下線部だけ読めばわかるように線を引いておきますね。
第四十五条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。
長くなりましたが、
1項・・・住民に対する外出禁止等の要請
2項・・・施設管理者やイベント開催者に対する開催の制限要請
3項・・・2項の要請に応じない時は指示ができる
ということが書かれてるわけです。
ここで是非知っておいていただきたいのは、この条文の主語は全て特定都道府県知事であることです。知事に負うところがものすごく大きいという法律です。総理が本法に基づいて住民に外出禁止を要請することはできません(法律に基づかない形でただのお願いをすることはできちゃうわけですが)。
それから、あくまで要請に留まるので、外出したら罰金、とかいうこともできません。かなり抑制的に書かれていることがわかるかと思います。
第四十九条(土地の使用)
2 前項の場合において土地等の所有者若しくは占有者が正当な理由がないのに同意をしないとき、又は土地等の所有者若しくは占有者の所在が不明であるため同項の同意を求めることができないときは、特定都道府県知事は、臨時の医療施設を開設するため特に必要があると認めるときに限り、同項の規定にかかわらず、同意を得ないで、当該土地等を使用することができる。
本法において、最もキツめのことが書かれているので紹介しておきます。
医療施設を開設するために、場合によっては所有者の同意を得ずに土地を使用できるということが書かれています。感染症対策なので、医療施設を作るためにはそこまでの権利の制限は仕方ない(個人の利益よりも公共の利益を優先しないと)という考えが見えます。
以下、色々な物資を供給するためにできることが書かれています。もう一つだけご紹介しておきましょう。
第五十四条(緊急物資の運送)
長いので一部しか線を引きませんでしたが、緊急物資の運送について、場合によっては(かなり限定されますけれども)、配送指示が出せますと書かれていますね。
まとめ
これ以降も大事な条文があるのですが、長くなるのでこれぐらいにしておきます。
個人的にお伝えしたいこと(もしかしたらあまり知られていないんじゃないかと思われること)は、
・緊急事態宣言がなされると、都道府県知事の役割がめっちゃ重要
ということです。
もちろん、実際にそういう事態になっても、横並びの調整であったり国によるガイドラインの策定であったり、あとは全部都道府県任せですよということにはならず、国は国で引き続き重要な役割を果たしていかなければならないのですが、
速やかな対応という意味ではやはり、知事の役割は非常に大きい仕組みになってます。
みなさん、自分が住んでいる都道府県の知事の名前と顔、すぐに出てきますか?
それは冗談ですけれども、都道府県や市町村のHP等も、時間がある時に一度確認して、必要な情報がどこになるのかなどご覧になられると、いざという時に役に立つと思います。
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<おことわり>
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(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)
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